エフゲニー・オネギーン

昨年のワーグナータンホイザー」に引き続き、今年も《オペラの森》へ行ってきました。


作品はチャイコフスキーの《エフゲニー・オネギーン》
音楽総監督および指揮は小澤征爾
ウィーン国立歌劇場との共同制作です。


幕が上がると白と黒のクールかつスタイリッシュなな世界が現れます。

舞台奥に雪が一面に降り続けています。
ロシアの凍てつく冬をあらわしているのでしょう。

このひんやりした冷たい舞台の上でタチヤーナとオネーギン、
そして タチヤーナの姉オリガとオネーギンの親友レンスキーの
恋愛劇が繰り広げられるのです。


==この後は歌劇の内容が含まれています。==



大変良かった場面は3つ。


★1つ目は第2幕第2場。

レンスキーが愛するオリガとオネーギンが踊るのに嫉妬し、
決闘を申し込みますが、自らの死を招く予感に恐れて嘆くシーンです。

子供の頃から親しんできたそれも愛するオリガの家で
決闘をしなくてはならないなんて!と謳いあげたとき、
この幼馴染の4人が子供の頃遊んだであろう
風景が目に浮かんだのです。

ロシアのつかの間の短い春。
緑芝に小さな白い花が咲くおだやかな時間です。

そのあたたかな幻想と些細な行き違いから起きた悲劇の落差に
レンスキーの嘆きが身に沁みるように感じました。

ここまで表現してしまうレンスキー役のマリウス・ブレンチウは
大変素晴らしい!



★2つ目は第2幕第3場。

決闘後、オネーギンがレンスキーに死をもたらした場面。

演出のファルク・リヒターの解釈だと思いますが、
レンスキーは最後の最後に親友に仲直りを求めようと銃を置くのです。
しかし、オネーギンはそれに気づかず、振り返りざまにレンスキーを撃ってしまうのです。
親友を自分の手で殺害してしまったオネーギンの悲劇。



★そして、3つめは第3幕。

幕が上がると美しい舞台。

ふたたび舞台の奥では雪が降り続けています。
その前には鈍銀色の階段があり、
鏡のように磨かれた床にその階段と
降り続ける粉雪を映し出されています。

鳥肌が立つほどに冷ややかで美しい舞台。
その舞台だけで観衆のため息が聞こえてきます。

この場面は、世間に飽いたオネーギンが旅行から戻り、
故郷についたところから始まります。

オネーギンが故郷のパーティに出席すると
タチヤーナがグレーミン公爵の妻として登場します。

タチヤーナはすっかり洗練され、
大変美しい女性として成長していました。
その姿にオネーギンは心奪われ、愛を告白します。

しかし、タチヤーナはオネーギンをいまだ愛してはいても、
夫がいる身、人の道ははずせないと凛とし、去っていきます。

このときのタチヤーナとオネーギンのデュエットが
素敵でした。

高音で歌い上げるタチヤーナ。
凛とした美しさが最後まで余韻を残しました。



でも、今回のオペラですばらしい歌声および演技力を発揮したのは
主役の二人ではなく、グレーミン公爵役のシュテファン・コツァン(バス)と
レスキン役のマリウス・ブレンチウ(テノール)でした。

シュテファン・コツァンの「恋は年齢を問わぬもの」は
浪々と低い声で歌い上げ、ほんとうに惚れ惚れしてしまいました。

調べたところ彼はまだ35歳。
これからが楽しみです。

この二人は拍手もとても多かったです。

ラストの挨拶にはキャスト、オーケストラ、
小澤征爾のほかに5名ぐらいの海外の方も舞台で挨拶していました。

合唱指揮、装置、衣装、証明、振付などのみなさんのようです。

ロマンチックなチャイコフスキーの音楽
+ 情緒豊かな演技+現代的な舞台美術
+ ファミリーのようなチームワーク
によって作られていた歌劇だったですね。

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東京のオペラの森2008
エフゲニー・オネギーン
東京文化会館 大ホール

音楽監督および指揮:小澤征爾
演出:ファルク・リヒター