イカロスの翼

『モモ』や『はてしない物語(Never Ending Story)』の著者
ミヒャエル・エンデの書いたものに『鏡のなかの鏡−迷宮』という
いくつかの短編集を織り込んだ本がある。

鏡のなかの鏡―迷宮

鏡のなかの鏡―迷宮

この中にずっと心に引っかかっていた物語が一つある。


それはギリシャ神話のイカロスの翼がテーマと思われる内容で、
父親思いの息子が空を飛ぶために
神々からの試練を受けるというものだ。


その試練とは簡単そうに思える。


ただ網を背負い、丘のような急な坂のある町を
下から上まで歩いて登るというだけ・・・・・・。



坂を登る息子に町の人々は
空を飛ぶならこれを持っていってくれといろいろなものを
網にぶら下げてくれるようお願いする。
息子は彼らの気持ちを汲んで、すべて承諾する。


坂を上るほど網にはいろんなものがぶら下がり、
その重量は重くなる。


みんなの思いを背負い続け、
重い網を何とか引きずり歩き続け、丘の頂上に到着し、
ついに自分はこの試練に打ち勝ったと確信する。



しかし、
神々は息子を置いたまま飛び去っていく。


息子は崩れ落ち、父親は嘆き悲しむ。



この物語を読んだとき、
町の人々の思いを汲み、その気持ちを背負って
重い坂を登りきった息子のことを置き去りにした
神々の理由がまったくわからなかった。


その時、私は高校生だった。


釈然としない気持ち、
なぜだろう?どうして息子は見放されたのだろう?という疑問は
心の底に仕舞われていたものの、
何かのときにフッと浮き上がってきた。


いまは、その理由が分かると思う。


そして、ふと自分も重い網を背負ってはいないかと振り返る。